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東京地方裁判所 平成5年(ワ)727号 判決

主文

一  本訴原告と本訴被告との間において、本訴原告が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

二  反訴原告の反訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、本訴被告・反訴原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

(本訴請求事件)

主文第一項同旨

(反訴請求事件)

1  反訴原告と反訴被告との間において、反訴原告が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

2  反訴被告は、反訴原告に対し、別紙証券目録記載の証券を引き渡せ。

第二  事案の概要

本件は、本訴原告・反訴被告(以下「原告」)と本訴被告・反訴原告(以下「被告」)とが、小山公商(以下「小山」)が有していた別紙会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」)について、原告は、数次の売買の後、譲渡担保契約により、被告は売買契約により、それぞれこれを取得したと主張して、右ゴルフ会員権を自己が有することの確認を求める(本訴及び反訴)とともに、被告が、原告に対し、原告が所持する本件ゴルフ会員権の入会預託金預り証の引渡しを求めた(反訴)事案である。

小山が平成四年三月一六日当時本件ゴルフ会員権を有していたこと及び原告が別紙証券目録記載の証券(以下「本件証券」)を所持していることは争いがないが、原告及び被告の本件ゴルフ会員権取得の有無及び対抗要件具備の有無は争いがる。

右の争点についての原、被告の主張は、次のとおりである。

1  原告及び被告の本件ゴルフ会員権取得の有無

(原告の主張)

(一) 小山は、株式会社マス・ヨシモト(以下「マス・ヨシモト」)に対し、平成四年三月一六日、本件ゴルフ会員権を二二六〇万円で売り渡した。

(二) マス・ヨシモトは、株式会社ワイ・エム・ユー(以下「ワイ・エム・ユー」)に対し、平成四年三月一六日、本件ゴルフ会員権を二二六〇万円で売り渡した。

(三)(1) 原告はワイ・エム・ユーに対し、平成四年五月二二日、次の約定で二三〇〇万円を貸し付けた。

弁済期 平成四年五月二九日

利息 年一四パーセント

遅延損害金 年三〇パーセント

(2) ワイ・エム・ユーは、原告に対し、(1)の借受日に、(1)の借受金債務を担保するため、ワイ・エム・ユーが債務を履行しなかったときは、原告は、本件ゴルフ会員権を債務の全部又は一部の弁済に代えて取得するか、又はこれを第三者に任意処分して代金を債務の弁済に充当することができるとの約定で本件ゴルフ会員権を譲渡担保として譲渡した。

(被告の主張)

被告は、小山から、平成四年四月一日、ワイ・エム・ユーの仲介により本件ゴルフ会員権を二一三〇万円で買い受けた。

2  原告及び被告の対抗要件具備の有無

(原告の主張)

小山は、ゴルフ場経営会社である沼津観光開発株式会社(以下「沼津観光開発」)に対し、平成四年六月二六日に同社に到達した内容証明郵便で本件ゴルフ会員権を原告に譲渡した旨を通知した。

(被告の主張)

被告は、沼津観光開発に対し、ゴルフクラブへの入会を申し込み、同社から、平成四年六月一五日、右入会の承諾を得た。

なお、被告は、沼津観光開発に対し、同月二二日、同社の請求により入会金一〇三万円を支払った。

右承諾により、被告は本件ゴルフ会員権譲渡の対抗要件を具備したというべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  甲一の一・二、二、九の一ないし五、一〇の一ないし九、一五の一ないし六、一七、十八、乙七、八の一ないし三、九の一、一五の一・三ないし五・七(いずれも成立の争いがない)、甲四ないし七、二〇の一・二、乙一五の六(成立についてはいずれも弁論の全趣旨)、甲一三の一・二、一四、乙一五の二(成立についてはいずれも証人宮川忠行)、乙一ないし六(成立についてはいずれも被告代表者)、証人大島雄次及び同宮川忠行並びに被告代表者によれば、小山からの本件ゴルフ会員権の移転等について、次の各事実が認められる。

(一) 小山は、ゴルフ会員権の売買等を業とするマス・ヨシモトに対し、平成四年三月一六日、本件ゴルフ会員権を二二六〇万円で売り渡し、裏面の裏書人記名調印欄に署名し実印を押捺した本件証券(甲一の一・二)、平成四年三月一二日発行の印鑑登録証明書(甲一六)、いずれも署名し実印を押捺した会員名義変更申請書(新名義人欄は空欄、乙一五の二)、白紙委任状(甲四)、紛失届(甲五)、代金完済証明書(甲六)及びゴルフ会員権譲渡通知書(譲受人欄は空欄、甲一四)をマス・ヨシモトに交付し、同社からは、右代金から取引手数料四五万二〇〇〇円を控除し五か月分の年会費八三三〇円を加算した二二一五万六三三〇円の支払を受けた。

(二) マス・ヨシモトは、(一)の同日、本件ゴルフ会員権を同じくゴルフ会員権の売買等を業とするワイ・エム・ユーに対し二二六〇万円で売り渡し、小山から交付された本件証券等の書類七点及び誓約書(甲七)を交付し、ワイ・エム・ユーからは、右代金及び五か月分の年会費八三三〇円合計二二六〇万八三三〇円の支払を受けた。

(三) 被告は、以前、ワイ・エム・ユーからゴルフ会員権を購入したことがあり、同社を知っていたが、同社に沼津ゴルフクラブのゴルフ会員権の購入を依頼していたところ、(二)の同日、ワイ・エム・ユーから、本件ゴルフ会員権を二一三〇万円で買い受け、同年四月一日、右代金に手数料二〇万円及び五か月分の年会費八三〇〇円を加算した二一五〇万八三〇〇円を支払った。

しかし、被告は、ワイ・エム・ユーに対し、本件ゴルフ会員権の名義書換手続を委託したため、ワイ・エム・ユーから本件証券等の名義書換手続に必要な書類の交付を受けることなく、本件証券等書類七点の預り証の交付のみを受けた。

(四) ワイ・エム・ユーは、沼津観光開発に対し、同年五月一九日、小山の印鑑登録証明証(乙一五の七、平成四年三月一二日発行であるが甲一七とは違うもの)、被告の商業登記簿謄本及び印鑑証明証、被告代表者の戸籍抄本及び住民票写し、被告が記名、押印した誓約書を添えて小山、被告連名の会員名義変更申請書(乙一五の二)を提出し、沼津ゴルフクラブへの入会を申し込んだ。なお、本件証券の提出は、沼津観光開発から入会が承認された名義書換料を支払うまで必要なかった。

(五) しかし、ワイ・エム・ユーは、資金繰りが苦しく、ゴルフ会員権の売買及びゴルフ会員権を担保とする融資等を業とする原告から、同年五月二二日、二三〇〇万円を弁済期同月二九日、利息年一四パーセント、遅延損害金年三〇パーセントとの約定で借り受け、右借受金を担保するため、原告に対し、本件ゴルフ会員権及び佐原スプリングスカントリー倶楽部のゴルフ会員権を譲渡担保として譲渡した。

そのため、ワイ・エム・ユーは、原告に対し、本件証券、小山の平成四年三月一二日発行の印鑑登録証明書、小山が署名し実印を押捺した白紙委任状、紛失届、代金完済証明書及びゴルフ会員権譲渡通知書(いずれもマス・ヨシモトから交付を受けていたもの)を交付するとともに、小山名義の会員名義変更申請書(甲三)及び譲渡通知書(甲八の一ないし三)を偽造し、合わせてこれらを交付した。

(六) 沼津観光開発は、同年五月三〇日の入会審査委員会において、被告の入会を承認し、同年六月一六日ころ、被告に対し、入会の承認と名義書換料の支払を通知した。

そこで、被告は、沼津観光開発に対し、同月二二日、名義書換料一〇三万円を支払った。

(七) 一方、ワイ・エム・ユーは、(五)の借受金を同年五月二九日の弁済期に返済することができなかったため、原告は、一旦、弁済期を同年六月八日まで延期したが、ワイ・エム・ユーは、同日にも返済することができなかった。

このため、原告は、譲渡担保権の実行を検討し、当初交付を受けた小山の印鑑登録証明書の発行年月日が同年三月一二日であったため、ワイ・エム・ユーに対し、発行年月日が新しい印鑑登録証明書の追加を請求し、ワイ・エム・ユーは、マス・ヨシモトを通じて小山から同年六月一五日発行の印鑑登録証明書(甲二)を入手し、これを原告に交付した。

そして、原告は、小山が署名した実印を押捺したゴルフ会員権譲渡通知書(甲一四)の譲受人欄に原告の住所、名称を記入して同月二五日にこれを沼津観光開発に対し内容証明郵便により送付し、右内容証明郵便は、翌二六日に同社に到達した。

(八) なお、右内容証明郵便を受けて、沼津観光開発は、被告に対し、直ちに、譲受人を原告とするゴルフ会員権譲渡通知書が送付されてきたことを知らせたので、被告は、原告に対し、同月二九日には、被告が原告より前に本件ゴルフ会員権を買い取っているとの通知を発した。

2  1で認定したとおり、争点1の原告の主張(原告がワイ・エム・ユーから本件ゴルフ会員権を譲渡担保として譲り受けたこと等)は、これを認めることができる(なお、原告の主張は、譲渡担保権の取得―ただし、その方式は譲渡と同じ―であるから、譲渡担保権の実行の要件を備えておらず、実行の手続に瑕疵があるとの被告の主張は、理由がない)。

一方、争点1の被告の主張は、被告が本件ゴルフ会員権を直接小山から買い受けたとの主張とすれば、これを認めることができないが、小山から譲渡された後、被告がワイ・エム・ユーから買い受けたとの主張と善解すれば、これを認めることができる。

二  争点2について

1  そこで、念のため、争点2についても検討する。

本件ゴルフ会員権は、いわゆる預託金会員組織のゴルフ会員権を解することができるが、右会員権は、ゴルフ場経営会社所有のゴルフ場施設を優先的に利用しうる権利及び預託金の返還請求権並びに年会費納入等の義務をその内容とする契約上の地位であって、その譲渡には指名債権の譲渡を伴うのであるから、右契約上の地位の譲渡を債務者以外の第三者に対抗するためには、指名債権の譲渡の場合に準じて、確定日付ある証書をもってする譲渡人の通知又は債務者の承諾が必要であると解される。

2  これを本件についてみるに、一・1で認定したとおり、小山は、譲受人欄を空欄にしたまま署名し実印を押捺したゴルフ会員権譲渡通知書をマス・ヨシモトに交付しているのであって、右によれば、小山はマス・ヨシモト及び同社が譲渡する相手(さらにはその者が譲渡する相手)への本件ゴルフ会員権の譲渡を了解し、その者に小山名義の譲渡通知書の発送を委託しているものと認めることができるから、原告が右ゴルフ会員権譲渡通知書の譲受人欄に原告の住所、名称を記入して沼津観光開発に対し内容証明郵便により送付した行為は、小山の行為を小山の意思に基づいて代行したものというべきである。

したがって、争点2の原告の主張(原告の対抗要件の具備)は、これを認めることができる。

なお、被告は、甲一四のゴルフ会員権譲渡通知書には、ゴルフ会員権の譲渡期日の記載がないから債権譲渡の通知として無効である旨主張するが、確定日に記載がなくとも、譲渡の日は通知を発した日以前であることは書面上明白であり、また、ゴルフ会員権が二重に譲渡されたときの譲受人相互の間の優劣は、確定日付ある通知が債務者に到達した日時又は確定日付ある債務者の承諾の日時の先後によって決せられるのであるから、譲渡の日が確定日をもって記載されていないからといって、債権譲渡の通知として無効であると解することはできず、被告の主張は採用することができない。

3  一方、被告は、沼津観光開発の入会の承認をもって本件ゴルフ会員権譲渡についての債務者の承諾とみるべきである旨主張するが、沼津観光開発の承認が確定日付ある証書をもってされたとの主張はなく、前掲乙四によれば、沼津観光開発の入会承諾書には確定日付が付されていないことが認められるから、その余の点について判断するまでもなく、被告が対抗要件を具備したとの争点2の被告の主張は理由がない。

したがって、本件ゴルフ会員権が、ワイ・エム・ユーから原告と被告とに二重に譲渡された(原告は譲渡担保権の取得)とすれば、原告のみが対抗要件を具備したのであり、原告はその権利を被告に対抗しうるというべきである。

三  右によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(別紙)

会員権目録

クラブ名   沼津ゴルフクラブ

経営会社   静岡県沼津市足高字尾上四四一番地

(預り証上の住所 静岡県沼津市上町四番地)

沼津観光開発株式会社

種類     預り金証券、個人、正会員

預り証番号  一一六〇号

最終名義人  小山公商

(別紙)

証券目録

証券名    沼津ゴルフクラブ入会預託金預り証

発行人    沼津観光開発株式会社

証券番号   一一六〇号

額面金額   四〇万円

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